October 22, 2007

シングルマザーを取り巻く労働と生活の状況

昨秋、労働教育センターの「女も男も」という刊行物に掲載したルポです。編集上の都合で、実際にはこれよりも短い記事となっていますが、インタビュイーのチェック済みでもあるので、こちらに全文掲載します

シングルマザーを取り巻く労働と生活の状況
~少子化対策の前にすべき対応を 

厚労省の調査があぶり出す母子家庭の厳しい状況
 2003年(平成15)の厚生労働省による「全国母子世帯等調査」では、1,225,400 世帯で前回調査(1998年)に比べ 270,500 世帯、28.3 %の増加となっている。
 今や珍しくなくなった感のあるシングルマザーの存在だが、「国民生活基礎調査」(2003年)の全世帯数との割合でみると 2.7 %と、まだまだマイノリティであることがわかる。
 母の平均年齢は39.1歳、末子の平均年齢は10.2歳。母子世帯となった時点では平均33.5歳で、そのときの末子は4.8歳である。
 母の83.0%が就業しており、そのうち「常用雇用者」が39.2%(前回調査では50.7%)、「臨時・パート」が49.0 %(同38.3%)である。
 前回調査における就業率が84.9%と大きい変化がないにもかかわらず、「常用雇用者」の割合が 11.5 %低下し、「臨時・パート」が 10.7 %増加しているのは、ここ数年の規制緩和等による影響であると推察され、特筆すべき点だ。
 仕事の内容は「常用雇用者」が「事務」「専門的・技術的職業」「サービス職業」の順に多く、「臨時・パート」が「サービス職業」「販売」「事務」となっている。
 母子家庭になる前から就業していた人の割合は66.9%だか、常用雇用者は30.3%、専業主婦だった母も母子世帯となってからは73.7%が就業しているが、常用雇用者そのうち33.9%である。
 総務省統計局の「労働力調査」によると、平成15(2003)年における母子世帯の完全失業率は8.9%であり、一般世帯の完全失業率5.3%に比べ高くなっている。
 こうした母子家庭の置かれた厳しい状況を表しているのが、その平均所得額であり、243万5千円という金額は、一般世帯の602万円の5割以下、高齢者世帯の304万6千円と比べても低い水準にとどまっている(厚生労働省「国民生活基礎調査」(平成14年)。
 内訳をみると、所得金額の80.4%は「稼働所得」(平均所得243万5千円に対して195.7万円)であり、13.2%は「公的年金・恩給以外の社会保障給付金」(同じく32万円)であり、ここには児童扶養手当も含まれている。
 
児童扶養手当の削減は母子家庭をより貧困に
 児童扶養手当とは、「児童扶養手当法」に基づき、離婚・死亡・遺棄などの理由で父と生計を同じくしていない母子世帯等の児童に対して、主に行政から支給される手当である。
 上記の厚労省による調査結果を見ても、この児童扶養手当が母子家庭の子にとってどれだけ大きいかは明らかだ。
 ところが、2003年3月に厚生労働省が発表した「母子家庭及び寡婦の生活の安定と向上のための措置に関する基本的な方針」によると、母子家庭等及び寡婦を巡る状況の変化に応じて我が国の母子寡婦福祉対策を、根本的に見直すとある。
 「状況の変化」とは、母子寡婦たちの事由が戦争などによる死別から離婚や未婚出産による生別がメインになったことだという。
 「見直し」の具体策とは「福祉に関する相談と情報提供」と「就業による自立の支援」に主眼を置く内容とし、「所得制限限度額と手当額の引き下げ」「養育費算入等による所得範囲の拡大」による児童扶養手当の削減がなされることが決定した。
 この決定が及ぼす影響について、母子家庭の母親の当事者団体であるNPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむの赤石千衣子さんは次のように言う。
 「児童扶養手当を5年間受給後、あるいは貰っていても貰っていなくても受給権発生後7年間経過後は手当額を半額まで削減するという法改悪が2002年に行われてしまったことにより、2003年4月1日の施行から5年後にあたる2008年4月に手当が半額になる人たちが出てきます。そのことが彼らの生活にどれだけ大きな打撃を与えるかを想像してみて下さい」
 2002年にしんぐるまざあず・ふぉーらむが会員を始めとする母子家庭の母を対象に行った調査(※1)によると、児童扶養手当を受給している人は「全部」「一部」を合わせ71%である(※2)。
 現在の暮らしを「苦しい」「やや苦しい」と答えている人は65%を占め、母親の健康状態は「あまりよくない」が34%、「よくない」が24%であり、合わせて60%となっている。
 今の職場には「満足」「まあ満足」している人を合わせると61%であるが、その一方で「良い仕事があれば転職したい」との回答も36%ある。
 転職するとしたら「充分な収入が得られる」(59%)「「社保・雇用保険完備している」(31%)「土日に休める」(30%)などと、母子家庭の厳しい現状を改めて突きつける内容となっている。

※1 「母子家庭の仕事とくらし――ひとり親就労実態調査・就労支援事業報告書」(NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ)より
※2 この調査による受給状況は児童扶養手当改正前のデータ

副業を持つシングルマザーは25%
 赤石さんは「非正規雇用の多い母子家庭の収入が簡単に上がるはずはありません。私たちの調査(※1)でも生活のために二重、三重の就労をしている人が25%もいます。
 また、シングルマザーへの就業支援策といっても、実際には自治体任せで、実効性の薄いメニューばかりだという声も聞こえています。養育費の強制徴収としても、多重債務者や行方不明の相手からどうやってお金を貰うのか、厚労省の相談窓口や情報提供がどれだけ有効かまったく見えてきません。
 こういう状況の中で、児童扶養手当が削減されることは、母子家庭を今以上に貧しくし、子どもの養育にも悪影響を及ぼすのは火を見るより明らかです」と言う。
 母子家庭の家計を打撃する児童扶養手当の削減であるが、その削減率はまだ決まっておらず、国会を通さずに厚生労働省と内閣府の政令で決められるという。
 2002年度の法改定がされたときに、衆参両議院では次のような付帯決議がなされた。ひとつには「国は、児童扶養手当の受給期間が5年を超える場合の手当の一部支給停止に係る政令を定めるに当たっては、改正法施行後における子育て・生活支援策、就労支援策、養育費確保策、経済的支援策等の進展状況及び離婚の状況などを十分踏まえて制定すること」。
 もうひとつは、その際に「事前に母子福祉団体など幅広く関係者の意見を聞くとともに、児童扶養手当の所得制限についても、社会経済情勢や母子家庭の状況等を十分に勘案しながら、適切に設定すること」などである。
 しんぐるまざあず・ふぉーらむなどの団体は、この付帯決議が守られるように、国に提出する「児童扶養手当の減額の見直しを求める要望書」への賛同人集めと、国会に向けて「減額幅を最小限にとどめる請願」の署名活動に取り組んでいる。
 
母子家庭に課された「就業による自立」の現実
 今回の制度改定では、「就業による自立の支援」を強く打ち出しているが、では実際に働いているシングルマザーの実像はどのようなものだろうか。
 来年高校受験を控える息子さんと二人暮らしの岩田由希子さん(仮名)は、一部上場の某メーカーに勤めて10年目。同社には、離婚後子どもが5歳の時に入社した。
 当初はパートタイマーだったが、会社の株が店頭公開される時期と重なったことから、いきなり月に30~40時間の残業をともなう激務の波に呑まれたという。
 「養育費はなく、最初は850円という時給でしたから、生活を安定させるためにもとにかく仕事を頑張りました。おかげで時給は1050円にまで上がり、入社3年目には『嘱託社員にならないか』と声をかけてもらえました。」
 「嘱託社員」とは一年ごとの契約社員であり、社会保険、雇用保険、厚生年金、有給休暇等は正社員とほぼ同じ条件だが、給与体系が違うため、支給額に大きな差が出る。  
 労働組合への加入も正社員しか認められていないため、その点について交渉したくても、場が与えられていない。
 岩田さんと同じような嘱託社員は社内に10人ほどいるそうだが、仕事の内容やオフィスの位置関係から、誰がそうなのか、どんな仕事をしていてどんな問題を抱えているのかお互いにわからないし、それを話す時間もないというのが実情だ。
 「嘱託になったメリットとしては、月給制になったことがあります。手取りの収入はそれほど増えたわけじゃないんですが、時間給だと休みの多い月に収入が減るので不安でした。」
 その後、社内組織の改編や異動などを経て、今は営業戦略関連の部署で、年4回発行する商品カタログの制作、新商品に関する全社会議や商談会の運営、商品画像管理などを担当する。基幹的な業務に直接関わる機会もあり、繁忙期の残業時間は月90時間近くにも及ぶという。

「裁量労働制は要領のいい人にとって得」
 「昨年は4回ほど泊まりがけの出張もしました。職場の人間関係には恵まれていますし、仕事にやりがいも感じていますが、同じ年代の同じ仕事をしている正社員に比べると、給与や賞与の面で割り切れない思いもあります。」
 正社員と同等の仕事でも、基本給は19万円、残業以外の手当てはない。税金、社会保険、年金、年金基金、共済等で3万円以上引かれるため、残業の多い月でようやく手取り額が20万を越える程度だ。
 賞与は基本給の1.5ヶ月分、社員に支払われる業績手当は契約社員の岩田さんにはなく、その一方で、年収によっては児童扶養手当が支給停止となる年もある。
 「手当がもらえないこと自体もきついけど、税金や医療費、水道料金の基本料金など、今まで控除されていた費用がかかることも負担です。」 
 岩田さんはこれまで、徒歩数分の場所に住む両親の助けを借りて、仕事と育児の両立を図ってきた。家の建て替えで実家が転居したときも、それに合わせて子どもの足で行き来できる距離に引っ越ししたこともある。
 「実家に頼れるからそれでいいという問題じゃないし、子育てを優先して仕事をほどほどにやる、というのも現実にはできないことです。
 何しろ人手が足りないので任された仕事はちゃんとやらなきゃ同僚に迷惑がかかるし、万一契約を切られることがあれば、生活そのものができなくなるのですから」と岩田さん。
 今年の春、岩田さんの会社は同業他社との合併を果たしたが、職場ではそれによる混乱が続いており、ストレスの主な原因となっている。
 「二社の社風や仕事のやり方が違いすぎるので、ぶつかったり妥協策を見つけるのが大変なんですが、結局決まるのは会社にとって都合のいいやり方だったりします。
 裁量労働制も一部導入されていて、週に2、3日、毎日数時間しか出社しない社員もいます。あくまでも私の印象ですけど、今のところ要領のいい人ばかりが得をしているようにも見えますね(笑)。」
 転職も考えるが、10年間で培った社内での人間関係や立場、社会保険等のことを考えると、躊躇せざるをえない面もあると言う。
 「正社員じゃないのだから、もっと気楽に構えればいいのかも知れないけど、契約社員にはパートや派遣とは違う重みがあることも事実です。仕事は好きなので、とにかくもう少しゆとりを持って働けること、仕事に見合った報酬をもらえることが希望です」。
 シングルマザーに課されている「就業による自立」の現実には、さまざまな社会の歪みが押し寄せていることを実感した。

過酷な労働環境が母子家庭を直撃
 95年3月の設立以来、女性の労働問題に取り組んできた女性ユニオン東京の執行委員、伊藤みどりさんは、この10年ほどの労働環境の変化について次のように語る。
 「“日本的経営の転換期”と呼ばれる1995年頃、企業のなかで中高年のリストラや女性の一般職社員を新規採用しないで契約社員や派遣社員に置き換える方向が目立ってきました。
 そんななかで私たちは女性の力を引き出せる労働組合を作ろうと活動してきました。今では常識となっている同一価値労働同一賃金の取り組みも、当時掲げていたのは女性ユニオンだけだったのです。」
 年間に持ち込まれる相談件数は結成当初からそれほど大きな幅があるわけではないが、その内容に社会の縮図を見る思いがすると伊藤さんは言う。
 「一番顕著な例は、99年1月まで年間数件だった「病気・労災・休職」の相談が翌2000年1月までの第5期には32件といきなり急増しはじめ、05年度には64件となりました。」
 これは99年の均等法改定で女性にも深夜労働が解禁されたことと、それにより長時間労働が常態化したことで健康を害する人が続出したことを示していると伊藤さんは指摘する。
 そうした過酷な労働環境が与える精神状態への悪影響が原因か、職場内のいじめも陰湿化し、ときに暴力沙汰になるケースもあるという。
 最近の傾向では、指定管理制度以降の福祉関連施設におけるケアワーカーの労働条件や労働環境の悪化が目につくそうだ。また、すでにその劣悪な雇用条件が問題視されている郵便局の非正規職員(“ゆうメイト”)による相談も寄せられている。
 伊藤さんによると、女性ユニオンに対する「病気・労災・休職」の相談件数の曲線と精神疾患の労災認定件数の年次グラフは驚くほど一致するという。
 このような労働環境のなかで、シングルマザーが直接的に抱える問題には、まず長時間労働が上げられる。
 「昔はイレギュラーだった“残業”というものが当たり前になり、残業のない職場を探していては就職できないのが今の世の中です。」
 また、セクシャルハラスメントの被害も相変わらず多く、それによってPSTDになってしまうような深刻なケースもあるという。
 「結局、母子家庭のお母さんは『働かなきゃいけない』と思い詰めて、心身両面で無理を重ねてしまうのでしょう。けれどもその前に、うちのような労働組合に相談して欲しいですね。
 また、生活保護は権利ですので、決して恥ずべきことじゃありません。必要なときは遠慮なく申請し、それに対してはきちんと手当てされることが大事です。」

ひとり親家庭の子どもを切り捨てることない社会へ
 しんぐるまざあず・ふぉーらむの赤石さんも言う。
 「『就労による自立を』と政府は言うけれど、今でも日本のシングルマザーは世界的に見ても異常なほど就労率が高いのです。とくに日本女性の就労パターンはM字型曲線ですから、彼女たちの置かれている立場がいかに特殊かわかるでしょう。なぜそういう状況なのかというと、働かないと食べていけないからなんですね。」
 諸外国と比べてみると、スウェーデンやオランダはもちろんのこと、1996年の制度改定で「要扶養児童家族扶助(AFDC)」を廃止したアメリカと比べても、日本政府がやろうとしている児童扶養手当の削減は過酷だと言う。
 アメリカで導入された「要家族臨時扶助制度(TANF)」は、福祉事業を州政府の自由裁量に任せ、現金給付に5年間という年限を定めながら就労支援をしているなど、日本の制度改定に似た点もある。
 けれども、“フードスタンプ”という食糧キップの配給や、“メディケア”という医療保障など最低限のセーフティネットが整備されている点は日本との大きな違いだ。
 シングルマザーたちの置かれている現実の前に「ワーク・ライフ・バランス」という言葉など虚しく響くと赤石さんは憤る。
 「子どもが社会の宝なら、ひとり親家庭の子どもも同じように扱われなければいけません。なのに、現実には弱者切り捨てが平然と行われている。国が本気で少子化に取り組もうとするならば、まずその点を改めなければ無理でしょう」という言葉に強く共感した。


「女も男も 2006年秋号」(労働教育センター)より

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